皇室典範:全文と沿革(明治から現在まで)
version 0.2(草案)/ 2026-07-19
0. 本資料の性格
「皇室典範」がそもそもどのような文書なのか、明治から現在に至るまでの全文と、 改正があった箇所の差分を、評価を加えず淡々と示すための資料である。 docs/research/male-female-line.md(男系・女系論争の資料) の背景として位置づける。
出典は国立国会図書館・衆議院・e-Gov法令検索など公的機関の一次資料を中心と している。旧字体・旧仮名遣いはできる限り原文のまま掲載した。
1. 「皇室典範」は一つではない:旧法と現行法の法的性格の違い
「皇室典範」という名の法令は、歴史上2つ存在する。条文の内容以上に重要なのが、 この2つの法的な性格そのものの違いである。
- 旧皇室典範(明治22年〔1889年〕2月11日裁定): 大日本帝国憲法と並び立つ 「典憲二元」体制の一部として、天皇が自ら裁定した法。帝国議会の議決を 経ずに成立し、その改正手続もまた、帝国議会ではなく皇族会議及び枢密顧問 への諮詢を経た天皇の勅定によってのみ行うことができると定められていた (旧皇室典範第六十二条、後掲§2)。国民の代表機関である議会が関与しない 法だった、という点が現行法との最大の違いである。
- 現行皇室典範(昭和22年〔1947年〕法律第3号): 日本国憲法のもとで、 他の法律と同じく国会の議決によって制定・改正される通常の法律である。 実際、本資料作成時点(2026年7月)でも、国会で審議・改正が行われている 最中である(後掲§4.3)。
2. 旧皇室典範(明治22年2月11日)全文
出典: 国立国会図書館「日本法令索引」1、Wikisource2、国立公文書館 デジタルアーカイブ(御署名原本)3。全12章62条。1947年5月2日、日本国憲法 施行とともに廃止された4。文語体・旧字体で書かれ現代人には読みにくいため、 読みが難しい語にはルビを付した(送り仮名・助詞は省略)。
天佑ヲ享有シタル我カ日本帝國ノ寳祚ハ萬世一系歷代繼承シ以テ朕カ躬ニ至ル 惟フニ祖宗肇國ノ初大憲一タヒ定マリ昭ナルコト日星ノ如シ今ノ時ニ當リ宜ク 遺訓ヲ明徵ニシ皇家ノ成典ヲ制立シ以テ丕基ヲ永遠ニ鞏固ニスヘシ茲ニ樞密顧問 ノ諮詢ヲ經皇室典範ヲ裁定シ朕カ後嗣及子孫ヲシテ遵守スル所アラシム
[御名御璽] 明治二十二年二月十一日
第一章 皇位繼承
第一條 大日本國皇位ハ祖宗ノ皇統ニシテ男系ノ男子之ヲ繼承ス
第二條 皇位ハ皇長子ニ傳フ
第三條 皇長子在ラサルトキハ皇長孫ニ傳フ皇長子及其ノ子孫皆在ラサルトキハ 皇次子及其ノ子孫ニ傳フ以下皆之ニ例ス
第四條 皇子孫ノ皇位ヲ繼承スルハ嫡出ヲ先ニス皇庶子孫ノ皇位ヲ繼承スルハ 皇嫡子孫皆在ラサルトキニ限ル
第五條 皇子孫皆在ラサルトキハ皇兄弟及其ノ子孫ニ傳フ
第六條 皇兄弟及其ノ子孫皆在ラサルトキハ皇伯叔父及其ノ子孫ニ傳フ
第七條 皇伯叔父及其ノ子孫皆在ラサルトキハ其ノ以上ニ於テ最近親ノ皇族ニ傳フ
第八條 皇兄弟以上ハ同等內ニ於テ嫡ヲ先ニシ庶ヲ後ニシ長ヲ先ニシ幼ヲ後ニス
第九條 皇嗣精神若ハ身體ノ不治ノ重患アリ又ハ重大ノ事故アルトキハ皇族會議 及樞密顧問ニ諮詢シ前數條ニ依リ繼承ノ順序ヲ換フルコトヲ得
第二章 踐祚卽位
第十條 天皇崩スルトキハ皇嗣卽チ踐祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク
第十一條 卽位ノ禮及大嘗祭ハ京都ニ於テ之ヲ行フ
第十二條 踐祚ノ後元號ヲ建テ一世ノ間ニ再ヒ改メサルコト明治元年ノ定制ニ從フ
第三章 成年立后立太子
第十三條 天皇及皇太子皇太孫ハ滿十八年ヲ以テ成年トス
第十四條 前條ノ外ノ皇族ハ滿二十年ヲ以テ成年トス
第十五條 儲嗣タル皇子ヲ皇太子トス皇太子在ラサルトキハ儲嗣タル皇孫ヲ皇太孫トス
第十六條 皇后皇太子皇太孫ヲ立ツルトキハ詔書ヲ以テ之ヲ公布ス
第四章 敬稱
第十七條 天皇太皇太后皇太后皇后ノ敬稱ハ陛下トス
第十八條 皇太子皇太子妃皇太孫皇太孫妃親王親王妃內親王王王妃女王ノ敬稱ハ殿下トス
第五章 攝政
第十九條 天皇未タ成年ニ達セサルトキハ攝政ヲ置ク 天皇久キニ亘ルノ故障ニ由リ大政ヲ親ラスルコト能ハサルトキハ皇族會議及樞密顧問 ノ議ヲ經テ攝政ヲ置ク
第二十條 攝政ハ成年ニ達シタル皇太子又ハ皇太孫之ニ任ス
第二十一條 皇太子皇太孫在ラサルカ又ハ未タ成年ニ達セサルトキハ左ノ順序ニ 依リ攝政ニ任ス
- 第一 親王及王
- 第二 皇后
- 第三 皇太后
- 第四 太皇太后
- 第五 內親王及女王
第二十二條 皇族男子ノ攝政ニ任スルハ皇位繼承ノ順序ニ從フ其ノ女子ニ於ケルモ亦之ニ準ス
第二十三條 皇族女子ノ攝政ニ任スルハ其ノ配偶アラサル者ニ限ル
第二十四條 最近親ノ皇族未タ成年ニ達セサルカ又ハ其ノ他ノ事故ニ由リ他ノ皇族 攝政ニ任シタルトキハ後來最近親ノ皇族成年ニ達シ又ハ其ノ事故既ニ除クト雖皇太子 及皇太孫ニ對スルノ外其ノ任ヲ讓ルコトナシ
第二十五條 攝政又ハ攝政タルヘキ者精神若ハ身體ノ重患アリ又ハ重大ノ事故アル トキハ皇族會議及樞密顧問ノ議ヲ經テ其ノ順序ヲ換フルコトヲ得
第六章 太傅
第二十六條 天皇未タ成年ニ達セサルトキハ太傅ヲ置キ保育ヲ掌ラシム
第二十七條 先帝遺命ヲ以テ太傅ヲ任セサリシトキハ攝政ヨリ皇族會議及樞密顧問 ニ諮詢シ之ヲ選任ス
第二十八條 太傅ハ攝政及其ノ子孫之ニ任スルコトヲ得ス
第二十九條 攝政ハ皇族會議及樞密顧問ニ諮詢シタル後ニ非サレハ太傅ヲ退職セシムルコトヲ得ス
第七章 皇族
第三十條 皇族ト稱フルハ太皇太后皇太后皇后皇太子皇太子妃皇太孫皇太孫妃 親王親王妃內親王王王妃女王ヲ謂フ
第三十一條 皇子ヨリ皇玄孫ニ至ルマテハ男ヲ親王女ヲ內親王トシ五世以下ハ男ヲ王女ヲ女王トス
第三十二條 天皇支系ヨリ入テ大統ヲ承クルトキハ皇兄弟姉妹ノ王女王タル者ニ 特ニ親王內親王ノ號ヲ宣賜ス
第三十三條 皇族ノ誕生命名婚嫁薨去ハ宮內大臣之ヲ公吿ス
第三十四條 皇統譜及前條ニ關ル記錄ハ圖書寮ニ於テ尚藏ス
第三十五條 皇族ハ天皇之ヲ監督ス
第三十六條 攝政在任ノ時ハ前條ノ事ヲ攝行ス
第三十七條 皇族男女幼年ニシテ父ナキ者ハ宮內ノ官僚ニ命シ保育ヲ掌ラシム事宜 ニ依リ天皇ハ其ノ父母ノ選擧セル後見人ヲ認可シ又ハ之ヲ勅選スヘシ
第三十八條 皇族ノ後見人ハ成年以上ノ皇族ニ限ル
第三十九條 皇族ノ婚嫁ハ同族又ハ勅旨ニ由リ特ニ認許セラレタル華族ニ限ル
第四十條 皇族ノ婚嫁ハ勅許ニ由ル
第四十一條 皇族ノ婚嫁ヲ許可スルノ勅書ハ宮內大臣之ニ副署ス
第四十二條 皇族ハ養子ヲ爲スコトヲ得ス
第四十三條 皇族國疆ノ外ニ旅行セムトスルトキハ勅許ヲ請フヘシ
第四十四條 皇族女子ノ臣籍ニ嫁シタル者ハ皇族ノ列ニ在ラス但シ特旨ニ依リ仍 內親王女王ノ稱ヲ有セシムルコトアルヘシ
第八章 世傳御料
第四十五條 土地物件ノ世傳御料ト定メタルモノハ分割讓與スルコトヲ得ス
第四十六條 世傳御料ニ編入スル土地物件ハ樞密顧問ニ諮詢シ勅書ヲ以テ之ヲ定メ 宮內大臣之ヲ公吿ス
第九章 皇室經費
第四十七條 皇室諸般ノ經費ハ特ニ常額ヲ定メ國庫ヨリ支出セシム
第四十八條 皇室經費ノ豫算決算檢査及其ノ他ノ規則ハ皇室會計法ノ定ムル所ニ依ル
第十章 皇族訴訟及懲戒
第四十九條 皇族相互ノ民事ノ訴訟ハ勅旨ニ依リ宮內省ニ於テ裁判員ヲ命シ裁判 セシメ勅裁ヲ經テ之ヲ執行ス
第五十條 人民ヨリ皇族ニ對スル民事ノ訴訟ハ東京控訴院ニ於テ之ヲ裁判ス但シ 皇族ハ代人ヲ以テ訴訟ニ當ラシメ自ラ訟廷ニ出ルヲ要セス
第五十一條 皇族ハ勅許ヲ得ルニ非サレハ勾引シ又ハ裁判所ニ召喚スルコトヲ得ス
第五十二條 皇族其ノ品位ヲ辱ムルノ所行アリ又ハ皇室ニ對シ忠順ヲ缺クトキハ 勅旨ヲ以テ之ヲ懲戒シ其ノ重キ者ハ皇族特權ノ一部又ハ全部ヲ停止シ若ハ剝奪スヘシ
第五十三條 皇族蕩產ノ所行アルトキハ勅旨ヲ以テ治產ノ禁ヲ宣吿シ其ノ管財者ヲ任スヘシ
第五十四條 前二條ハ皇族會議ニ諮詢シタル後之ヲ勅裁ス
第十一章 皇族會議
第五十五條 皇族會議ハ成年以上ノ皇族男子ヲ以テ組織シ內大臣樞密院議長宮內 大臣司法大臣大審院長ヲ以テ參列セシム
第五十六條 天皇ハ皇族會議ニ親臨シ又ハ皇族中ノ一員ニ命シテ議長タラシム
第十二章 補則
第五十七條 現在ノ皇族五世以下親王ノ號ヲ宣賜シタル者ハ舊ニ依ル
第五十八條 皇位繼承ノ順序ハ總テ實系ニ依ル現在皇養子皇猶子又ハ他ノ繼嗣タルノ故ヲ以テ之ヲ混スルコトナシ
第五十九條 親王內親王王女王ノ品位ハ之ヲ廢ス
第六十條 親王ノ家格及其ノ他此ノ典範ニ牴觸スル例規ハ總テ之ヲ廢ス
第六十一條 皇族ノ財產歲費及諸規則ハ別ニ之ヲ定ムヘシ
第六十二條 將來此ノ典範ノ條項ヲ改正シ又ハ增補スヘキノ必要アルニ當テハ皇族 會議及樞密顧問ニ諮詢シテ之ヲ勅定スヘシ
3. 現行皇室典範(昭和22年法律第3号)全文
出典: e-Gov法令検索(法令API)5。1947年5月3日の日本国憲法施行と同時に 施行された。全5章37条。以下は本資料作成時点(2026年7月19日)でe-Govが示す、 2017年の特例法連結までを反映した条文である。§4.3で扱う2026年改正案は 2026年7月17日に国会で成立済みだが、公布・施行(公布から3か月後の 見込み)がまだであるため、e-Govの条文にはまだ反映されていない (理由は§4.3を参照)。
第一章 皇位継承
第一条 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
第二条 皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。
- 一 皇長子
- 二 皇長孫
- 三 その他の皇長子の子孫
- 四 皇次子及びその子孫
- 五 その他の皇子孫
- 六 皇兄弟及びその子孫
- 七 皇伯叔父及びその子孫
前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを 伝える。前二項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする。
第三条 皇嗣に、精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故がある ときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、皇位継承の順序を変える ことができる。
第四条 天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。
第二章 皇族
第五条 皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を 皇族とする。
第六条 嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を内親王とし、三世 以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする。
第七条 王が皇位を継承したときは、その兄弟姉妹たる王及び女王は、特にこれを 親王及び内親王とする。
第八条 皇嗣たる皇子を皇太子という。皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を 皇太孫という。
第九条 天皇及び皇族は、養子をすることができない。
第十条 立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。
第十一条 年齢十五年以上の内親王、王及び女王は、その意思に基き、皇室会議の 議により、皇族の身分を離れる。親王(皇太子及び皇太孫を除く。)、内親王、王及び 女王は、前項の場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議に より、皇族の身分を離れる。
第十二条 皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を 離れる。
第十三条 皇族の身分を離れる親王又は王の妃並びに直系卑属及びその妃は、他の 皇族と婚姻した女子及びその直系卑属を除き、同時に皇族の身分を離れる。但し、 直系卑属及びその妃については、皇室会議の議により、皇族の身分を離れないものと することができる。
第十四条 皇族以外の女子で親王妃又は王妃となつた者が、その夫を失つたとき は、その意思により、皇族の身分を離れることができる。前項の者が、その夫を 失つたときは、同項による場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室 会議の議により、皇族の身分を離れる。第一項の者は、離婚したときは、皇族の身分 を離れる。第一項及び前項の規定は、前条の他の皇族と婚姻した女子に、これを 準用する。
第十五条 皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と 婚姻する場合を除いては、皇族となることがない。
第三章 摂政
第十六条 天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。天皇が、精神若しくは 身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができない ときは、皇室会議の議により、摂政を置く。
第十七条 摂政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
- 一 皇太子又は皇太孫
- 二 親王及び王
- 三 皇后
- 四 皇太后
- 五 太皇太后
- 六 内親王及び女王
前項第二号の場合においては、皇位継承の順序に従い、同項第六号の場合において は、皇位継承の順序に準ずる。
第十八条 摂政又は摂政となる順位にあたる者に、精神若しくは身体の重患が あり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に 従つて、摂政又は摂政となる順序を変えることができる。
第十九条 摂政となる順位にあたる者が、成年に達しないため、又は前条の故障が あるために、他の皇族が、摂政となつたときは、先順位にあたつていた皇族が、成年 に達し、又は故障がなくなつたときでも、皇太子又は皇太孫に対する場合を除いて は、摂政の任を譲ることがない。
第二十条 第十六条第二項の故障がなくなつたときは、皇室会議の議により、 摂政を廃する。
第二十一条 摂政は、その在任中、訴追されない。但し、これがため、訴追の 権利は、害されない。
第四章 成年、敬称、即位の礼、大喪の礼、皇統譜及び陵墓
第二十二条 天皇、皇太子及び皇太孫の成年は、十八年とする。
第二十三条 天皇、皇后、太皇太后及び皇太后の敬称は、陛下とする。前項の 皇族以外の皇族の敬称は、殿下とする。
第二十四条 皇位の継承があつたときは、即位の礼を行う。
第二十五条 天皇が崩じたときは、大喪の礼を行う。
第二十六条 天皇及び皇族の身分に関する事項は、これを皇統譜に登録する。
第二十七条 天皇、皇后、太皇太后及び皇太后を葬る所を陵、その他の皇族を 葬る所を墓とし、陵及び墓に関する事項は、これを陵籍及び墓籍に登録する。
第五章 皇室会議
第二十八条 皇室会議は、議員十人でこれを組織する。議員は、皇族二人、 衆議院及び参議院の議長及び副議長、内閣総理大臣、宮内庁の長並びに最高裁判所の 長たる裁判官及びその他の裁判官一人を以て、これに充てる。議員となる皇族及び 最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は、各々成年に達した皇族又は最高裁判所の 長たる裁判官以外の裁判官の互選による。
第二十九条 内閣総理大臣たる議員は、皇室会議の議長となる。
第三十条 皇室会議に、予備議員十人を置く。皇族及び最高裁判所の裁判官たる 議員の予備議員については、第二十八条第三項の規定を準用する。衆議院及び参議院 の議長及び副議長たる議員の予備議員は、各々衆議院及び参議院の議員の互選による。 前二項の予備議員の員数は、各々その議員の員数と同数とし、その職務を行う順序 は、互選の際、これを定める。内閣総理大臣たる議員の予備議員は、内閣法の規定に より臨時に内閣総理大臣の職務を行う者として指定された国務大臣を以て、これに 充てる。宮内庁の長たる議員の予備議員は、内閣総理大臣の指定する宮内庁の官吏を 以て、これに充てる。議員に事故のあるとき、又は議員が欠けたときは、その予備 議員が、その職務を行う。
第三十一条 第二十八条及び前条において、衆議院の議長、副議長又は議員とある のは、衆議院が解散されたときは、後任者の定まるまでは、各々解散の際衆議院の 議長、副議長又は議員であつた者とする。
第三十二条 皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官たる議員及び予備 議員の任期は、四年とする。
第三十三条 皇室会議は、議長が、これを招集する。皇室会議は、第三条、第十六 条第二項、第十八条及び第二十条の場合には、四人以上の議員の要求があるときは、 これを招集することを要する。
第三十四条 皇室会議は、六人以上の議員の出席がなければ、議事を開き議決する ことができない。
第三十五条 皇室会議の議事は、第三条、第十六条第二項、第十八条及び第二十条 の場合には、出席した議員の三分の二以上の多数でこれを決し、その他の場合に は、過半数でこれを決する。前項後段の場合において、可否同数のときは、議長の 決するところによる。
第三十六条 議員は、自分の利害に特別の関係のある議事には、参与することが できない。
第三十七条 皇室会議は、この法律及び他の法律に基く権限のみを行う。
附則(1947年original)
この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。現在の皇族は、この法律に よる皇族とし、第六条の規定の適用については、これを嫡男系嫡出の者とする。 現在の陵及び墓は、これを第二十七条の陵及び墓とする。この法律の特例として 天皇の退位について定める天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成二十九年 法律第六十三号)は、この法律と一体を成すものである。
4. 現行皇室典範の改正履歴
現行皇室典範は、1947年の制定以来、本則(第一条〜第三十七条)の条文そのものが 実際に書き換えられたのは、本資料作成時点でまだ一度もない。1949年・2017年の 「改正」は、いずれも本則には手を付けず、施行時期や関連法との接続を定める 附則のみを扱ったものである。2026年7月17日に成立した改正法(§4.3)は、 本則の条文が実際に書き換えられる初めての事例となる。ただし本資料 作成時点では公布・施行(公布から3か月後の見込み)前であり、条文上の 効力はまだ生じていない。
4.1 昭和24年(1949年)法律第134号
附則に「この法律は、昭和二十四年六月一日から施行する」という一文が追加された のみで、本則の条文には変更がない5。
4.2 平成29年(2017年)法律第63号 (天皇の退位等に関する皇室典範特例法)
天皇陛下(現在の上皇陛下)の退位を実現するため制定された特例法。皇室典範 本体の条文自体は改正されていないが、皇室典範附則に「この法律の特例として 天皇の退位について定める天皇の退位等に関する皇室典範特例法は、この法律と 一体を成すものである」という一文が追加され、両法が一体として運用されることに なった56。
4.3 【成立・施行待ち】2026年:皇室典範等の一部を改正する法律案
- 経緯: 2026年6月、衆参両院正副議長が皇族数確保策の取りまとめ案(女性 皇族の身分保持、旧11宮家の男系男子の養子案の2案)を決定7。これを受け、 政府が同内容の改正法案(閣第64号)を第221回国会に提出した。
- 審議経過: 2026年7月10日、衆議院本会議で自民・維新・中道改革連合・ 国民民主・参政などの賛成多数で可決され、参議院に送付された。参議院では 7月14日に特別委員会へ付託、7月16日に同委員会で可決(自民・維新・国民民主・ 公明・参政の賛成多数、反対は立民・共産・れいわ。立民提出の修正案〔旧宮家 養子縁組規定の削除等〕は否決)8。
- 成立(本資料作成時点): 2026年7月17日、参議院本会議で可決・成立した。
参議院公式サイトの審議経過ページ9、NHKニュース10、自由民主党
公式発表11でいずれも同日の可決・成立を確認した。首相官邸の記者会見
記録12によれば、施行は法律の公布から3か月後を予定しており、
政府はそれに向けて準備を進めるとしている(公布日・具体的な施行日は
本資料作成時点で確認できていない)。
- なお、docs/research/male-female-line.md §4.6.1には 当初「2026年7月10日、衆議院・参議院の両方で可決・成立した」との記述が あったが、これは同日時点では誤りだった(同日成立したのは衆院通過のみ)。 その後§4.6.1で訂正され、今回の再調査(2026年7月19日)で、実際には 7月17日に参院本会議で可決・成立したことを一次資料で確認した。§4.6.1にも その旨を追記した。
- 法案の構成: 「皇室典範等の一部を改正する法律案」という題名の通り、 皇室典範(第一条)、皇室経済法(第二条)、皇族の身分を離れた者及び皇族と なつた者の戸籍に関する法律(第三条)、住民基本台帳法(第四条)、行政手続法 (第七条)、日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法、第八条)の6本の 法律を一括して改正する構成になっている8。
以下、衆議院で可決された法案本文(第一条・皇室典範の一部改正部分)を、 実際の法律案の表記のまま掲載する(伝統的な法令改正の書式で、「○条中「A」を 「B」に改める」という形で新旧の差分を直接示す形式になっている)8。
第一条 皇室典範(昭和二十二年法律第三号)の一部を次のように改正する。
第九条中「皇族は」の下に「、第三十八条第一項の規定による場合を除き」を 加える。
第十条中「皇族男子」を「皇族」に改め、同条に次のただし書を加える。
ただし、第十四条第一項の者でその夫を失つたものと天皇及び皇族以外の男子 との婚姻については、この限りでない。
第十二条及び第十三条を次のように改める。
第十二条及び第十三条 削除
第十四条第二項中「の外」を「のほか」に改め、同条第三項及び第四項を次の ように改める。
第一項の者でその夫を失つたものが、天皇及び皇族以外の男子と婚姻したとき は、皇族の身分を離れる。
第一項の者は、次の各号のいずれかに該当するときは、皇族の身分を離れる。
一 その夫が皇族の身分を離れたとき。
二 離婚したとき。
第十五条中「場合を」を「場合並びに第三十八条第三項の規定による場合を」に 改める。
本則に次の一章を加える。
第六章 養子皇族男子
第三十八条 親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王(皇嗣及び皇嗣妃を除く。) は、皇室会議の議を経て、この法律による皇族男子であつた者の嫡男系嫡出の 子孫である現に皇族でない年齢十五年以上の男子であつて、配偶者及び子がない ものに限り、養子とすることができる。(以下、養子縁組の効果・第三十八条 各項の技術的な規定が続く。全文は8の一次資料を参照)
何が変わることになったか(§4.3のまとめ)
施行(公布から3か月後の見込み)後、以下の内容で条文が書き換わる予定である。
- 第十二条(削除): 現行法で「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻した ときは、皇族の身分を離れる」と定める条文そのものが削除される。これは 近年の眞子内親王(小室眞子さん)のケースのように、女性皇族が結婚によって 皇族の身分を失う、という現行ルールの根拠条文にあたる。
- 第十条の改正: 皇室会議の議を要する婚姻の対象が「皇族男子」から 「皇族」全般に拡大される。
- 新第六章・第三十八条(新設): 旧11宮家の男系男子の子孫(15歳以上、 独身・子なし)を、皇室会議の議を経て皇族の養子に迎えることができる制度が 新設される。
- 第一条(皇位は男系の男子が継承する)、第二条(皇位継承順位)など、 皇位継承の資格そのものを定める条文には、今回の改正案は一切手を 付けていない。今回の改正は、あくまで皇族の「数」の確保(女性皇族の 身分保持、旧宮家男系男子の養子)に関するものであり、女性天皇・女系天皇を 認めるかどうかという皇位継承資格の議論(§1・docs/research/male-female-line.md参照)には踏み込んでいない。
5. 出典
法令本文は著作権法第13条により著作権の目的とならない(法令そのものは 著作物として保護されない)。ただし転記に伴う誤字・脱字の可能性はゼロでは ないため、引用・転載の際は必ず上記一次資料で照合すること。
Footnotes
-
国立国会図書館 日本法令索引「皇室典範 明治22年2月11日皇室典範」 https://hourei.ndl.go.jp/simple/detail?lawId=0000000998 ↩
-
Wikisource「皇室典範 (明治二十二年二月十一日)」 https://ja.wikisource.org/wiki/%E7%9A%87%E5%AE%A4%E5%85%B8%E7%AF%84_(%E6%98%8E%E6%B2%BB%E4%BA%8C%E5%8D%81%E4%BA%8C%E5%B9%B4%E4%BA%8C%E6%9C%88%E5%8D%81%E4%B8%80%E6%97%A5) ↩
-
国立公文書館デジタルアーカイブ「皇室典範・御署名原本・明治二十二年」 https://www.digital.archives.go.jp/file/147112 ↩
-
「皇室典範 (1889年)」Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9A%87%E5%AE%A4%E5%85%B8%E7%AF%84_(1889%E5%B9%B4) ↩
-
e-Gov法令検索「皇室典範」(昭和二十二年法律第三号、法令API経由で 取得した現行条文) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000003 ↩ ↩2 ↩3
-
「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%81%AE%E9%80%80%E4%BD%8D%E7%AD%89%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E7%9A%87%E5%AE%A4%E5%85%B8%E7%AF%84%E7%89%B9%E4%BE%8B%E6%B3%95 ↩
-
時事通信「皇族確保『立法府の総意』案決定 女性身分保持・男系養子 2案―衆参議長」(2026年6月5日) https://www.jiji.com/jc/article?k=2026060500549&g=pol ↩
-
衆議院 第221回国会 議案本文情報「皇室典範等の一部を改正する 法律案」(閣第六四号、衆院可決時点の条文) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g22109064.htm ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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参議院 第221回国会「皇室典範等の一部を改正する法律案」審議経過 (一次資料。委員会付託2026-07-14、委員会可決2026-07-16、本会議可決 2026-07-17を記載) https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/221/meisai/m221080221064.htm ↩
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NHKニュース「皇族数確保に向けた改正皇室典範 参議院本会議で 可決・成立」(2026-07-17) https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015179021000 ↩
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自由民主党「初の皇室典範本格改正を実現 改正皇室典範が参院本会議で 可決成立」(2026-07-17) https://www.jimin.jp/news/information/213836.html ↩
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首相官邸「皇室典範改正の法案成立等についての会見」(2026-07-17) https://www.kantei.go.jp/jp/105/statement/2026/0717kaiken.html ↩