コラム:世界はこれから「女王の時代」を迎える――男系・女系から見る各国の王位継承ルール
version 0.2(草案)/ 2026-07-13
出典は文末にまとめている。学術論文ではなく百科事典・出版社解説記事・ ニュース記事レベルの出典が中心であり、一次資料での裏取りは今後の 課題である。本コラムは評価を下さず、確認できた事実のみを述べる。 世界の神話由来王家のコラムは「神話 から現在まで地続きか」という系譜の連続性を比較したが、本コラムは 切り口を変え、「誰が王位を継げるか」という各国の継承ルール(男系・ 女系、男性・女性)を比較する。世界には数多くの君主制があるため、 本コラムは代表的な事例に絞り、網羅は目指さない。
2026年現在、世界に女王は一人もいない
Wikipedia「現在の君主の一覧」によれば、2026年時点で、世界の独立国の 君主はすべて男性である。イギリスのチャールズ3世、スペインの フェリペ6世、オランダのウィレム=アレクサンダー、スウェーデンの カール16世グスタフなど、ヨーロッパの主要な君主国も例外ではない。 2024年1月14日にデンマークのマルグレーテ2世が退位して以降、この 状態が続いている。19世紀のヴィクトリア女王(イギリス)の時代以降、 世界のどこかに在位中の女王が常にいる状態が長く続いていたと されており、マルグレーテ2世の退位はその状態が途切れた出来事だった。
「女王がいる」ことと「女系」であることは同じではない
ここで、用語集「男系・女系」の定義を思い出し たい。ある人物が女性であること(女性天皇・女王)と、その人物への 継承経路に母→子のリンクが含まれること(女系)は、別の話である。
イギリスのヴィクトリア女王(在位1837〜1901年)、エリザベス2世(在位 1952〜2022年)は、いずれも父から王位を受け継いだ男系の女子で ある。日本の8人10代の女性天皇(推古天皇・ 奈良時代の女帝たち・ 江戸時代の二人のコラム参照)と、 この点では同じ構造にある。つまり「女王がいる国」の実例の多くは、 日本の歴代女性天皇と同様に「男系」の枠内に収まっている。
本当の「女系」の実例:ウィンザー朝の名前をめぐる攻防
では、実際に「女系」の継承が起きた例はあるのか。イギリス王室に、 まさにその実例がある。
1952年、エリザベス2世の即位直後、夫フィリップ王配の伯父にあたる マウントバッテン卿が「妻が夫の姓を名乗るのが通例である以上、これ からはマウントバッテン朝が統治することになる」という趣旨の発言を した。これを聞いた祖母メアリー王太后は強く反発し、チャーチル首相に 伝えた。チャーチルの進言を受け、エリザベス2世は1952年4月9日、「私と 私の子どもたちはウィンザーの家名・家族と呼ばれる」と宣言し、王朝名を ウィンザーのまま維持した。フィリップ王配はこの決定に不満で、「私は 自分の子どもに自分の名字を与えられない、この国で唯一の男だ」と こぼしたと伝えられる。1960年、エリザベス2世はあらためて、王室称号を 持たない子孫の姓を「マウントバッテン=ウィンザー」とする一方、王朝名 そのものは引き続き「ウィンザー」とする勅令を出した。
用語集の男系・女系の定義に照らせば、これは まさに「女系」の実例である。ジョージ5世→ジョージ6世(父→子)→ エリザベス2世(父→娘)まではすべて父→子のリンクだが、エリザベス2世→ チャールズ3世は母→子のリンクであり、この経路全体はもはや男系では ない。イギリス王室は、血統上は「女系」に移行しながらも、王朝の名前 (ウィンザー)を政治的決定によって維持する道を選んだことになる。
ヨーロッパで進む「絶対的長子相続制」への転換
現在ヨーロッパの主要な君主国の多くは、性別を問わず長子を優先する 「絶対的長子相続制」に法律を改正済みである。
| 国 | 改正年 |
|---|---|
| スウェーデン | 1980年 |
| オランダ | 1983年 |
| ノルウェー | 1990年 |
| ベルギー | 1991年 |
| デンマーク | 2009年 |
| イギリス | 2013年 |
一方、スペインは2026年現在も男性を優先する継承順位(男子がいなければ 女子が継承)を維持しており、東洋経済オンラインは「男系継承が残る 唯一のヨーロッパ王室」と位置づけている。実際、レオノール王女 (2005年生)が第一王位継承者になっているのは、妹のソフィア王女しか おらず兄がいないためであり、男子優先の制度そのものは変わっていない。
かつてのフランス王国は、これらとは対照的に、女性そのものの王位 継承権を「サリカ法典」を根拠に完全に排除していた。フランス王国の 歴史を通じて女王は一度も即位していない。この原則は非常に厳格に 守られ、14世紀にイングランド王エドワード3世が母を通じた女系の 継承権を主張したことが百年戦争の一因になったとされるほどである。
次の世代は「女王の時代」になる
絶対的長子相続制への転換により、ヨーロッパでは次世代の君主として 複数の王女がすでに確定している。ベルギーのエリザベート王女 (2001年生、王位継承第1位)、スペインのレオノール王女(2005年生、 男子優先制のもとでの第一位)、スウェーデンのヴィクトリア皇太子 (1977年生、性別中立法のもとで皇太子となった世界初の事例)、 オランダのカタリナ=アマリア王女(2003年生)、ノルウェーのイングリッド ・アレクサンドラ王女(2004年生)は、いずれも各国の法定推定相続人 である。2026年現在は「女王ゼロ」の状態だが、これは一時的なもので あり、今後数十年でヨーロッパは複数の女王が同時に在位する時代を 迎える見通しである。
日本との対比
日本の皇室典範第1条は「皇位は、 皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定めており、女性が 天皇に即位すること自体が現行法上認められていない。歴史上は8人10代の女性天皇が存在したが (推古天皇・奈良時代の女帝たち・ 江戸時代の二人のコラム参照)、全員が 父方をたどれば天皇に至る男系の女子であり、母から子への継承(女系)の 例は記録上一度もない(皇室典範改正2026のコラム 参照)。
これをヨーロッパと比べると、次の2点が事実として確認できる。 (1) ヨーロッパの多くの国は既に性別を問わない継承制度に移行して おり、日本の皇室典範のような「男系男子限定」の規定を持つ国は、 今回確認できた範囲では見当たらない(男子優先が残るスペインも、 女子を完全に排除してはいない)。(2) 一方で「女系」の継承(母から 子へのリンクを含む王位継承)が実際に起きた例は、今回確認できた 範囲ではイギリスのエリザベス2世→チャールズ3世が最も明確な事例で あり、これは日本には一度も存在しない構造である。どちらの制度が 望ましいかについて、本コラムは判定しない。「万世一系」という概念 自体が近代に体系化された思想だとする学術的評価は 国学のコラム、神話からの系譜の地続き性についての 国際比較は世界の神話由来王家のコラム を参照。
まとめ
(1) 2026年現在、世界に在位中の女王は一人もいない(2024年のデンマーク ・マルグレーテ2世退位以降)。(2) しかし「女王がいる」ことと「女系」 であることは別の概念であり、ヴィクトリア女王やエリザベス2世を含む 歴史上の多くの女王は、日本の女性天皇と同じく父から王位を継いだ 男系の女子である。(3) 実際の「女系」継承の明確な実例はイギリスの エリザベス2世→チャールズ3世であり、王朝名をめぐる政治的決定 (1952年、ウィンザーの名を維持)を伴った。(4) ヨーロッパの主要君主国 の多くは1980年代〜2013年にかけて性別を問わない絶対的長子相続制に 移行済みで、スペインのみ男性優先の規定を残す。フランス王国は サリカ法典により女性の継承権自体を歴史を通じて完全に排除していた。 (5) ベルギー・スペイン・スウェーデン・オランダ・ノルウェーでは、 次世代の君主として王女が既に確定しており、今後ヨーロッパは複数の 女王が同時に在位する時代を迎える見通しである。(6) 日本の皇室典範 第1条は男系男子限定であり、女性天皇そのものが現行法上認められて いない点で、現在のヨーロッパ主要国とは制度上明確に異なる。
出典
- Wikipedia「現在の君主の一覧」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%81%AE%E5%90%9B%E4%B8%BB%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7
- Wikipedia「House of Windsor」(英語版) https://en.wikipedia.org/wiki/House_of_Windsor
- Wikipedia「ウィンザー朝」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B6%E3%83%BC%E6%9C%9D
- Wikipedia「サリカ法典」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%82%AB%E6%B3%95%E5%85%B8
- 東洋経済オンライン「世界の王室から読む『女系・女性天皇』の可能性」 https://toyokeizai.net/articles/-/311384
- Wikipedia「スペイン王位継承順位」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%A4%E3%83%B3%E7%8E%8B%E4%BD%8D%E7%B6%99%E6%89%BF%E9%A0%86%E4%BD%8D
- madameFIGARO.jp「ヨーロッパを彩る、5人の若きプリンセスたちの 現在地。」 https://madamefigaro.jp/culture/celebrity/250716-5princesses.html
出典は百科事典・経済メディア・ファッション誌のニュース記事が中心で、 学術論文ではない。特にサリカ法典の適用範囲の変遷、百年戦争と女系 継承権主張の因果関係の学術的評価、および各国の絶対的長子相続制 導入をめぐる国内議論の詳細については、一次資料・学術文献による 確認を今後さらに進めていく。世界には本コラムで扱っていない君主制 (中東・アジアの現存王室、過去に存在した王朝など)が多数あり、 本コラムは代表的な事例による比較にとどまる点に留意されたい。